2013年の『光秀の定理』から始まった歴史小説の今回は三作品目にあたる。
いままで歴史小説で幾度となく描かれてきた信長の生き方を
これまでにない斬新な視点から紡ぎだされた作品である
ざっくり伝えると
織田信長の幼少期から最期を迎える本能寺の変まで、
信長の思考や心情など、いわゆる信長を形成している
「原理」にフォーカスしてストーリーが展開していく
新感覚の歴史小説ともいえる
その原理とはなにか?
母親の愛情に恵まれず、幼い頃からひとりで遊んでいた吉法師(信長)は蟻の行列を飽きずに見続ける場面が描写されている。
その中で吉法師はある問いを抱く
「なぜ懸命に働くのは2割しかいないのだろう?」と
残りの6割は全体の流れに沿う形で働き、後の2割は怠け者になるということを何度確認しても変わることがなかった。
やがて織田信長となった少年は、人間にもこの法則が該当することに気づく
いまでは有名なパレートの法則、働きアリの法則として有名であるが、その法則を題材としてなぜそうなってしまうのか?
では本当に優秀なものだけにしたらどうなるのか
信長はそんな法則にもとづき、効率をひたすら追い、理想の組織を求めていく
自分をトップとして、配下のすべてが汗をかく、懸命に働く組織。いうなれば究極の成果主義である
ただ、どれだけ目指してもその原理が浮き彫りとなる
“この世に神は無くとも、神に近いこの世を支配する何かの原理のようなものが存在するのか。それが、これらの事象を発生させているのか”とたどり着く
基本信長の一人称視点であるが、配下からの視点や考えも含まれており、そこに働きアリの法則を取り入れたことによって
これまでにない独自の戦国小説として完成している。
効率の時代ともいえる現代へのアンチテーゼともいえる本作品。終幕での「信長の原理」の真実をあなたはどう読み解くだろうか。ぜひ読んで語らいましょう。
蒼山継人