著者チャールズ・ハンディは、資本主義が多くの成果をもたらしたのは事実としながらも、行き過ぎた効率主義や利己主義が生み出す閉鎖的な社会と市場に対する問題を指摘しています。 本来の人生の目的を見出すことを哲学として、自己探求心と顧客を最優先する考え方やそのシステム造りの重要性を説き、この行き詰った状況を変えるのは、日本をはじめとする東洋諸国が行動を起こすことであると大きな期待を寄せています。 ▶資本主義の歪み ▶正当な利己性の主張 ▶サンセポルクロの「キリストの復活」 ▶長期的成長には適応効率 ▶ノーベル賞作家デレック・ウォルコットを引用した白い小石 の話 ▶開かれた問題とそれに取り組む企業の紹介 ▶雇用ではなく顧客を探すこと、またその能力を高める ▶自信が持てない若者には手本となりうる大人と知り合う機会
が不足している ▶無形資産の属性 など 本書が刊行されたのは1997年である——— 著者の見識の高さや調査力、分析力、人間性には感服いたします。引き寄せなのかシンクロと呼ぶべきなのか、私の中にずっとあったモヤモヤが本書との出会いを生んでくれたのかもしれません。 著書の中にある、「質問の正解を知っていることと、状況を変えられることは同じではない。」というメッセージは、若者をはじめ、現代を生きる私たちが最も直面している問題なのではないでしょうか。どう対処すべきなのかという「開かれた問題」に対し、その解決策や取り組みについて多くの事例を紹介しています。 著者が語る、 争わせようとするのではなく、結び付けようとする形が必要なのではないか——— 企業で働く社員を市民と呼び、正当な責任の下で企業も個人も無形資産で繋がっていく。 これからの私たちには、そのような意識改革、学びの機会を作ることが求められており、今まさに行動を起こす時なのではないでしょうか。その最適な手段を、著者は本書で教えてくれています。 最後に少し話が逸れますが、 著者の資本主義に対する考え方や人生観、哲学については、モーガン・フリーマン主演の映画「最高の人生の見つけ方」を思い出させます。余命宣告されるという共通点以外は全く異なる二人でしたが、とあるコーヒー豆の話題が二人を強く結びつけていきます。貧しくも知識人であり、エベレストを愛するひとりの男性と、資本主義の象徴ともいえるピラミッド(比喩として)を愛したひとりの男性。いがみ合ったり、すれ違ったりしながらも、人は関わりあいのなかでしか幸せや喜びは感じられないという事実に気付き、映画の最後にはお互いへの感謝を述べています。 人は、生まれ持った資質を覆すことができる———変わるなら、いまだ。 そう述べて、筆者は本書を締め括っています。これほどの知見に触れる機会は、そうあるものではないでしょう。ぜひ一度、本書を手に取っていただきたいと思います。 ふくろう
2021.10.20