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le sputnik (六本木/フレンチ)

le sputnik (六本木/フレンチ)

2022.02.27

念願のクリニックを開業したとの連絡をもらい、その女性をお祝いすべく六本木にあるフレンチレストラン『le sputnik』を訪れた―――

予約の際に「開業のお祝いです」とだけ伝え、当日の料理やワインはすべてお任せにし、初めて訪れるのだから折角のお店のコンセプトをそのまま楽しむことにした。
この店を知ったのは2年くらい前だったか、、薔薇を咲かせたような美しい一皿があり、一度味わってみたいと思っていた。寒い冬に薔薇を咲かせてもらえるのならこれほど有難いことはないし、きっと彼女も喜んでくれるだろう。

                  ※

当日、予約の時間まで30分ほどあったのを見計らい、近くの「ゴトウ花店」に立ち寄った。お花を買うつもりはなかったのだが、プレゼントやコサージュを買うために何度か訪れていたし、引っ越したばかりで素敵な鉢植えを探していたので良い機会だと思った。

店内に入ると、以前と変わらず、ゆったりとした空間に色とりどりのお花が美しく並んでいた。ここを訪れるたび、たくさんのお花と心地よい香りに囲まれて働いているスタッフのことを羨ましく思っていたが、生花のケアはとても大変だし、開花のタイミングや季節に合わせてあれだけの数を揃えているのは本当に立派なことだと思った。実際のところは休みなく働く日もあるだろうし、それでも、生き生きと仕事をしている姿を見ていたらこちらまで幸せな気持ちになってくる。

声をかけてくれたスタッフに薔薇の植付けのことを聞いてみた。以前に苗をいただいて育てたが、病気で駄目にしたことがあったからだ。知らなかった水はけのことや雨対策など、詳しく丁寧に説明してくれるスタッフに感心しつつ、気持ちの晴れた私は近く再訪することを伝えた。

                  ※

「le sputnik」のエントランスに到着すると、
暫くしてゲストの女性と合流した。彼女とはワインを通じて知り合い、もう10年近くの付き合いだが、独立したいという話は以前から何度も聞いていた。コロナ禍であっても着々と準備を進めていたようで、私にとってもとても嬉しい知らせだった。

内側からドアが開き、店内へと案内された―――

テーブルに着くと早速シャンパンが運ばれ、私は乾杯とともにお祝いの言葉を伝える。美味しいと、彼女は優しい笑顔で応えてくれた。置かれたボトルを見ると、ラベルにも美しい女性の横顔が、、このシャンパンが女性へのオマージュとして造られたものだとすぐにわかった。はじめての空間であっても緊張することはなく、ハンサムな男性ソムリエの心遣いであっという間にその場が和やかな雰囲気になる。会話を止めないように、サーブもセンス良く、とても丁寧だった。

ショープレートに置かれたメッセージカードには、お店のコンセプトがこのように綴られていた。


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       店名の由来となった「sputnik(スプートニク)」は
     もともとロシア語で「同行者・旅の連れ」を意味する言葉です
       私たちは、よその国の言葉を自国の言葉にするという
        フランス人の柔軟かつ前衛的な姿勢を尊重して
  フランス料理の伝統を重んじながらも新しいことに挑戦したいという気持ちを
         この「le sputnik」という店名にこめました

      みなさまが伝統から生まれる新しい提案の同行者となり
        束の間の旅を楽しんでくださることを願います

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「同行者・旅の連れ」まで読んだところで、私はロシアではなく、フランスでもなく、オレゴンを舞台にした映画「スタンド・バイ・ミー(そばにいて/寄り添って)」を連想していた、、大人となり作家となった主人公が、親友の死を知ったことからその彼と少年時代に経験したひと夏の思い出を回想する。私の大好きな映画だ。

それはいいとして、このお店のコンセプトは、「旅」に見立てた素晴らしいコース料理とサービスを通じてゲストに寄り添い、前衛的(仏語でavant-garde/時代を先駆けるさま)で新しいことにチャレンジしていくというものだ。華々しい芸術や文化を育んできたフランス人へのリスペクトや感謝も感じられ、居心地のよい空間づくりのためにしっかりとしたコンセプトが掲げてあった。

「スタッフにできないことはゲストにもできない。」―――私は駆け出しのころ職場にいたフランス人からそのように教わったことがある。スタッフが困っていることに気が付かないのであれば、きっとゲストが困っていても気が付かないだろう、、とてもフランス人らしい着想であり、日本人とはまた異なる視点を持っていることがわかる。最上の空間を演出するためには、ゲストのことだけではなく、スタッフ同士もまたお互いを気遣うことを忘れてはならないのだ。

起業者の想いに触れるというのは、開業した彼女にとってもよい刺激となっただろう。コンセプトメイクや空間づくりには苦労したそうだし、彼女の場合は動物クリニックだから、聴覚や嗅覚を頼りに生活をしている動物たちのことまで考えなければならなかったのだ。本当に頭が下がる。

                  ※

そんな彼女の話を聞いていたら、
この日の我々にとってのメイン料理、フォワグラが運ばれてきた。
―――私はため息をついた。けっして彼女と私で違うフォワグラ料理が用意されたからではない、、盛り付けが本当に美しかったのだ。さすがに驚いた―――ビーツを薄く飴細工のように加工し、フォワグラのムースの上にそのチップスを薔薇の花びらのように重ねていくそうだ。

お祝いなのだから、よく考えなくとも分かりそうなものだが、実はてっきり私にも薔薇のプレートが用意されるものだと思っていた、、ずっとそれまでは同じプレートだったのだ!しかし、それを顔には出さないように私はグラスの赤ワインを飲み干し、男の「旅」はいばらの道、とても険しいものなのだと悟った、、

(まあそれは冗談として、)
シグネチャー(代表料理)とされている一皿を味わうことこそ叶わなかったが、よろこぶ彼女を見て、お祝いという日に華を添えられたことは素直に良かったと思う。
また機会をみつけ、是非とも再訪したいお店の一つとなった。

コンセプトを大切にするというこの日の食事を通じて、
「ひとりなら早く行けるが、ふたりなら遠くまで行ける。」―――そんな言葉があることも思い出した。ここでもスタッフは生き生きと仕事をしていたし、私は好きな映画や自身の経験と重ねつつ、彼らが寄り添い、コンセプトに込めた想いが多くのゲストに伝わっていくことを心から応援したいと思った。


最後に、シェフをご紹介しておこう。
高橋雄二郎シェフは福岡県のご出身。フランス料理に魅せられ2004年に渡仏。
三ツ星「ルドワイヤン」をはじめ、パティスリー「パン・ド・シュクル」、ブーランジェリー「メゾン・カイザー」など、各分野を専門的に掘り下げて帰国。国内でもご活躍されたのち、2015年に同店をオープンさせた。
ソースに存在感を与えながら、羅列ではなく一つ一つのお皿を「旅」のように繋いでいく。2回目以降の来店であれば、一人ひとりに寄り添い、また違ったお料理のご提案もしてくれるそうだ。お祝いだけではなく様々なシーンで利用したい。

『le sputnik』
〒106-0032 東京都港区六本木7-9-9 リッモーネ六本木1F
03-6434-7080
https://le-sputnik.jp/

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